国会の動き、政治動向

政府の「実行計画」は過労死を合法化し促進する「働き方改悪」=働き方・労災補償のあり方・裁判の判決などに悪影響もたらす

3月28日、政府が「働き方改革実行計画」を発表しました。その中には労働時間への対応策も盛り込まれていますが、「過労死の悲劇を二度と起こさない」と安倍首相が宣言した方向とは真逆の、過労死を促進しかねない内容となっています。

簡単に紹介しますと――

①残業の上限については、「休日労働を含め、単月で100時間未満、2~6か月の平均で80時間以内、年間で960時間」もの長時間残業を合法とみなす。(▼グラフ参照)

▼わたしの仕事8時間プロジェクト作成

②特に長時間労働が著しい自動車運転業務、建設業務、医師については、法の施行後5年間は現状のまま。5年後の見直しも長時間労働が前提。研究開発業務は、規制を適用しないものとする。

③終業と始業の間の休息時間を保障するインターバル規制は努力義務にとどめる。

④労働時間の規制をほとんど適用除外する「高度プロフェッショナル制度」を創設する。実労働時間はカウントせず、みなし労働時間で働く裁量労働制の拡大を行う。

――というものです。この実行計画に対し、政府や、働き方改革実現会議に参加した人たちは、「青天井と批判される今の労働基準法に、初めて罰則付きの上限規制を導入するのだから、歴史的な大改革である」と評価しています。

はたしてこの案は、改善なのでしょうか? 「わたしの仕事8時間プロジェクト」は、皆さんに呼びかけたいと思います。

実行計画の問題点について知ってください。これは「よりマシ・一歩前進」どころか、今の働き方、労災補償の在り方、裁判の判決などに悪影響をもたらす可能性が高いものです。過労死する水準の残業を合法化するとともに、労働時間規制が適用されない労働者を増やそうとしているからです。詳細は後段にて説明しますので、「これは改悪」という認識を共有し広げてください。

他方で、実行計画に対して「期待外れでガッカリ。でも決められてしまったものは仕方がない」と、あきらめの気持ちでいる方も多いでしょう。そうした方には、計画はまだ確定したわけでなく、見直しさせるチャンスがある、ということをお知らせしたいと思います。

確かに政府は、経済団体と労働団体のトップが合意したから原案のまま法案化すべきと言っています。しかし、安倍首相が選んだ一部の人たちが密室で決めた一方的な内容に、私たちは黙って従う義務はありません。法制度づくりの本番はこれからです。労働政策審議会と国会という二つの公開の審議の場には、私たちの意見を反映させる機会があります。

ぜひ、8時間プロジェクトのネット署名に、あなたの賛同とコメントをよせてください。私たちは、意見を政府・関係者に届け、労働基準法の抜本改正を働きかけます。

家族を過労死でなくした遺族の方たちは、政府案に強く反対しています。息子さんを過労によるうつで亡くした遺族の方は、「過労死ラインを超える月80~100時間もの残業を合法化し、死ぬことがわかっている労働時間まで働かせたあげく死なせることがあれば、まさに殺人である」と訴えています。

私たちも、過労死を考える家族の会の皆さんの訴えに共感します。過労死するほどの残業を合法化するなど、ありえない話です。政府案を抜本的に修正させ、時間外労働の大幅な削減を毎年着実に進める「プログラム法(手順や日程などを規程した法律)」にさせましょう。プログラム法に掲げる目標は、すべての労働者に1日8時間労働の原則を基本とする働き方を保障し、やむをえない場合の例外としての残業は、「健康被害の起きない範囲に規制する」というものです。

労働法の規制より、関連業界の協議による自主的努力が重要という意見もありますが、協議だけでは改善が進まないことは、過去の経験から明らかです。残業削減プログラムに沿って、業界が長時間労働に依存したビジネスモデルを修正していくよう促すことが必要です。公害対策の時のように厳しい規制を行うことで、はじめて業界は知恵を出します。そこに新しい技術やビジネスの芽生えも期待できます。

罰則付きの厳しい規制によって経営努力を引き出しつつ、公正取引ルールの確立(適正な納期・取引単価の確立)や必要な関連業法の改正、賃金の引き上げ、国の予算措置や社会保障制度の改善を進めていくことで、長時間労働に依拠した社会構造を転換し、「8時間働いたら帰る。暮らせる」社会にすることができるでしょう。

こうした一連の取り組みを、皆で共有し実践することで、自分の健康と命を守り、大切な家族や自分のための時間をもてる社会をつくる。それが、「わたしの仕事8時間プロジェクト」の目標です。

「わたしの仕事8時間プロジェクト」にご賛同いただいている皆さんには、是非、①ネット署名のさらなる拡大と、②残業月100時間未満はひどすぎる、健康被害をなくすために、少なくとも残業は月45時間以内・年間360時間以内にせよ、などのコメントを、SNSなどで広げていただきますようお願いいたします。

————————————-
■労働時間法制についての実行計画(政府案)は、なぜ改悪か。政府案の問題点を挙げてみます。

 ①過労死ラインの残業合法化は違法

月の残業が45時間を超えると脳・心臓疾患を発症しやすくなり、2~6か月の平均で80時間、単月で100時間を超えるほどの残業ともなれば、長時間労働を原因とした健康障害の発生確率は非常に高くなります。こうした科学的見地をもとに、現在は、厚生労働大臣が残業の上限を月45時間等と決める限度基準告示を定めているのであり、実行計画の上限案では、過労死ラインの残業命令を合法化することになります。それは、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と定めた労働基準法第1条に違反します。憲法、過労死等防止対策推進法にも違反しています。

 ②規制のプラス効果はなく、多くの企業に悪影響

厚生労働省の調査によれば、「月100時間超の特別延長時間を認めている特別条項付き36協定を締結している企業」は全体の1.2%、「80時間超・100時間以下の協定締結企業」は3.6%にすぎません(▼下表参照)。つまり、実行計画は、ごくわずかな企業(経団連加盟の大企業)に対し、今の36協定を、微調整させる程度しか、プラスの影響をもたらさないのです。

▼厚生労働省「第6回仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」配布資料より

他方で、現在、実行計画案よりも短い残業協定を締結している企業においては、「月の残業上限が100時間未満まで合法となる」インパクトは絶大です。「合法になったから」と、時間外労働・休日労働の上限時間を引き上げようとする経営者が続出するでしょう。ちなみに、「月の残業上限を45時間以内とする36協定を締結している企業」は全体の33%(▼下図参照)、「45時間を超え80時間以下の特別条項付き36協定を締結している企業」は17.2%ですから、これら過半数の企業に対しては、実行計画は悪影響をもたらす恐れがあります。政府は「残業をできるだけ短くするように」と指針をつくるようですが、罰則なしで法令でもない指針の効果は期待できません。

▼厚生労働省「第6回仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」配布資料より

なお、現在、「36協定なしに残業させている」違法な企業は26%もありますが、こうした企業は現行法でも取り締まり可能であり、法制度が変わっても違法であることは同じなので、効果は変わりません。違法が放置されている現状をかえりみれば、労働基準監督官をはじめとする労働行政の職員(日本は諸外国より少ない)を増やすことが、緊急に求められているといえます。

 ③労災をめぐる裁判や労災認定に悪影響

現在は、月の残業が80時間に至らなくても、労災認定されるケースは数多くあります。月80時間もの残業命令については、裁判で「公序良俗に反する」との判決がでて、安全配慮義務違反として使用者に対し、損害賠償命令がでることも珍しくありません。ところが、実行計画にそった法改正が行われると、「法令どおりであるから、100時間未満までの残業は公序良俗違反とまではいえない」ことになるでしょう。そうなれば、労災認定はされても、損害賠償は却下される可能性が高くなります。

科学的知見に基づく、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準過労死認定基準そのものが、法との整合性をとるために、見直しをされる可能性もないとはいえません。

 ④長時間労働が顕著な業種・職種の過労死を黙認

実行計画では、もっとも過労死が多く発生している業務・職種への対策を放棄したり、後回しにしています。自動車運転業務、建設業務、医師においては、法の施行後5年間は、現状のままとし、5年後に見直すとしています。

しかし、建設業務に適用される5年後の案は、単月100時間未満などとするもので、過労死合法化案にすぎません。

自動車運転業務についての5年後の案は、さらにひどく年間960時間の規制です。休日労働が加われば、年間1200時間もの長時間残業合法化となります(現行の自動車運転者の限度基準では年間1276時間までが合法だそうです)。これでは過労死続出の現状とかわりません。

医師については、5年後の方向性について、2年後に検討をはじめるとしており、まったくの先送りです。

そして、研究開発業務にいたっては、「新技術・新商品開発という業務の特殊性」を理由にして、規制を適用除外するというのです。健康確保措置として医師の面談などとしていますが、死ぬほど働いて健康を害したあとに面談してもらっても手遅れです。予防措置のためには、上限規制の適用が必要です。

結局、労働者の命と健康よりも、企業と事業の都合を優先する。これが、実行計画の基本発想だということでしょうか。

 ⑤生体リズムへの配慮が欠落

24時間についてまとまった休息時間を設けるインターバル規制の導入は、命と健康を守るための生体リズムへの配慮として、今回の改正の目玉となるはずでした。ところが、結論は企業の努力義務と助成金に形骸化されてしまいました。

さらに、今の大臣告示では、「1週間で15時間、2週間で27時間、4週間43時間」等と、健康を考慮した細かい上限設定がなされていますが、実行計画では月と年単位の規制に簡略化しています。これは、経済団体が「1日・1週単位の労働時間規制をすると、柔軟な事業運営ができなくなる」と抵抗したためです。

要するに、実行計画においては、生体リズムへの配慮は現行法令より弱められているといえます。

 ⑥規制破壊もセットで提案

残業の上限規制が緩すぎて、改善どころか害悪が大きいことを述べてきましたが、もっと「積極的な改悪」も、実行計画には盛り込まれています。ひとつは、労働時間規制の適用除外をする高度プロフェッショナルの創設。もうひとつは、企画業務型裁量労働制の適用対象の拡大・手続きの規制緩和です。

加えて実行計画では、テレワーク・副業・兼業を勧めています。これらは、労働時間管理を、労働者あるいは雇用されない働き手の自己責任にしてしまう政策です。

 ⑦女性の活躍・男女共同参画に逆行

実行計画は、労働者全体の長時間労働を促進させる政策です。これでは、女性の活躍、育児・家事・介護等の家族的責任の男女平等な分担、社会活動(地域包括ケアにおけるボランティアは政策の要に位置づけられています)への男女共同参画など、進むはずがありません。政府の社会政策では、ボランティアの力を活用しようとする傾向が強まっていますが、ボランティアをする時間的・経済的なゆとりのある人は、ますます減っていくでしょう。

▼ネット署名にご協力ください!
8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう。

 

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