長時間労働・過労死をなくそう

4月から残業の上限規制等について新しい法令が施行されます――新しいルールと働くものの権利を知って行使し長時間残業のない職場づくりへ

 2019年4月から、残業の上限規制や年次有給休暇についての新しい法令が施行されます(※注1)。その根拠となる「働き方改革関連法(案)」には欠陥や問題があり、「わたしの仕事8時間プロジェクト」はネットで法案修正の署名を呼びかけ、皆さんの賛同とご意見をもとに、政府や国会に働きかけをおこなってきました。

 残念ながら、法案は、私たちの希望どおりには修正されないまま、18年6月の国会で可決・成立しました。しかし、以下のような一定の修正を実現しました。

(1)不払い残業の温床となる「裁量労働制の対象拡大」案は、撤回させることができました。これは、立法根拠として首相や厚生労働大臣が示した労働時間の統計データに不備とねつ造があったことを、上西充子法政大学教授が発見し、野党が足並みをそろえて問題を追及したことによります。

(2)「高度プロフェッショナル制度」は成立してしまいましたが、「連日24時間勤務命令」を排除できない法の欠陥を暴き、一定の制限をかけることに成功しました。それは、労働時間に関する具体的な指示や業務量に比べて短い期限の設定など、実質的に労働時間に関する指示があるような業務の場合は、「高プロ」対象とならないという要件の設定です(※注2)。「高プロ」が労働者保護を破壊する危険なものである点は変わりませんが、導入要件や手続きの厳格化で、安易な導入はしにくい制度にはなったかと思います。

(3)時間外労働と休日労働の上限として、過労死が発生するほどの長時間労働まで可能なように法律に書き込まれてしまった点は、修正できませんでした。しかし、法律を運用する場面で重要となる省令や指針に、私たちの要求の一部が盛り込まれました。
 残業命令が罰則を免れるためには、労働基準法の第36条に基づく「36(さぶろく)協定」が必要ですが、その協定に書き込む上限は、労使の責務として「必要最小限にとどめられるべき」こととされました(※注3)。また、使用者は月45時間を超える残業は脳・心臓疾患の発症リスクを高めるということに留意しなければならず、合法の範囲内で残業をさせた場合であっても「安全配慮義務を負うことに留意しなければならない」とされました(※注4)。

 以上、一定の修正を実現できたのは、皆さんのご協力のおかげであり、あらためて感謝申し上げます。

 わたしたちは、新しい労働基準法の施行を機会に、皆さんの働き方が、よい方向へと向かうことを期待しています。

 しかし、法令違反が横行し、長時間労働が蔓延している今の日本の状況からすると、問題もかなり起きるのではないかとも考えています。

 例えば、法律の上限までの残業を可能とする36協定を結んだり、過剰な業務量をそのままにして、上限規制をカタチばかり強めることで、タイムカード打刻後の不払い残業や、持ち帰り残業が発生するようなことになってしまうことや、裁量労働制や高プロについて、対象業務や年収、手続きなどの要件を守らずに導入しようとする経営者がでてくることも考えられます。

 長時間残業のない職場環境をつくるには、法令の内容を知り、労働者の権利を知り、さらに権利を行使して職場の状況を改善していく必要があります。あなたの職場で起きていることに問題があれば、労働組合に相談してみてはいかがでしょうか。

 業務のあり方や人の配置・採用のあり方、さらには賃金のあり方も含め、職場の改善を実現するのは、簡単ではありませんが、しっかりとした労使交渉をすれば、少しずつでも状況を改善していくことは可能です。

 「わたしの仕事8時間プロジェクト」は、新しいルールと働く人の権利を知らせる活動と、「高プロ」廃止を含めた法制度の改正を求める活動を続けるつもりです。

 生きづらい今の社会と働き方を変え、8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくるため、今後ともよろしくお願いします。

(注1)中小企業の施行は2020年4月からとなります。「中小企業」の定義については、厚生労働省の「解説」5頁参照。

(注2)労働基準法施行規則(勤労統計不正問題で公布が遅れており、対応条文は未確定)

(注3)厚生労働省告示第323号「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針(36協定指針)」第2条

(注4)36協定指針第3条第1、2項

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